ザーンセ・スカンスで事件発生

電車はザーンダイク駅に到着した。小さな駅だ。

改札がない。一応ここは有名な観光地だというのに。
通路の真ん中にカードの読み取り機がついた棒が立っている。ピッとタッチして階段を下りた。でも、タッチしなくても階段は下りられる。つくづくオランダって人間の良心で成り立っている国なんじゃないだろうか。

さっきまでいたスローテルダイクも郊外だったが、まだ朝8時半という時刻だからか、ここはさらにひっそりとしている。高い建物は見当たらない。

ここから風車小屋の立ち並ぶザーンセ・スカンスまでは歩いて10分ちょっとらしい。

民家と思しき建物が立ち並ぶ。ほとんどの家はレンガ造りで、整然とした街並みはとてもスタイリッシュ。オランダってどこに行っても何を見ても「スタイリッシュ」という言葉がピッタリだ。

犬を散歩させてる人がいた。なんか犬までおしゃれだなぁ。

民家の反対側の通りはココア工場らしかった。そういわれてみれば香ばしいカカオの香りが漂っている（ような気がした。何しろ寒かったので嗅覚が鈍感・・・）。

途中コンビニを発見。近ごろ日本では見かけなくなってしまった「SPAR」ではないか。モミの木のマークが懐かしい。SPARはヨーロッパでは非常にメジャーな小売りチェーンだが、本部はアムステルダムにあるらしい。お膝元だったとは。

大きな川に出た。川の向こう岸にいくつもの風車が見える。

スッフィーがとても喜んでいるのを見て、私は胸をなでおろした。半ばムリヤリだったけど、来てよかった。

中にある木靴工場などは８時から営業しているようだが、まだ観光客は他に見当たらなかった。天気は薄曇りで今にも雨が降りだしそうだったし、出足が遅いのだろう。

と、どこから出て来たのか、ひとりのおじさんが「Hello!」と言いながらこっちに向かって歩いてきた。首からカメラを下げている。

観光客らしいその人は、ラテン系で背はあまり高くなく、気さくな小太りの中年おじさんといった感じ。
風車や伝統的な家屋を背景に、スッフィーが何枚かの写真を撮ってあげた。

撮り終えてカメラを返そうとすると、おじさんはそばで様子を眺めていた私の方に向き直った。

はっきりとは覚えてないが、そんな感じのことを言われ「えっ」と戸惑っていると、「さあこちらへ」と誘導されたので、とりあえず日本人特有の愛想笑いをしながら「まぁ写真の一枚くらいいいか」とおじさんと並んでカメラの方を向いた、その時だった。

背が高い白人の私服男性がこちらへ走ってきた。警察手帳的なものをこちらに示している。

私とスッフィーは凍り付きその場に立ち尽くした。